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定年後の晴耕雨読

 3年ほど前のことです。時々通っている和食レストランのオーナーシェフとその奥様が、「私も65歳になるのですが、これから自分のしたいことをしたいと思い、ある山の中に土地と家を借りました。畑もあるので、野菜作りでもして、ゆっくりしたいと思います。それで、今年いっぱいで、店を閉めたいと思います。」とおっしゃるのです。
 私も、その店は、料理がおいしい上、家庭的で落ち着いた雰囲気であったため、とても気に入った店でした。
 私は、「それは、残念だなあ。でも、年内は、せっせと通いますよ」と伝えました。
 オーナーシェフは、「澄み切った空気のもとで、野菜作りをしたり、畑で採れた野菜を料理するのが楽しみです。ゴルフもし放題ですよ。」とおっしゃっていました。
 私は、「そうかなあ。この店は、よく流行っているし、勿体ないなあ。そんなに、田舎は甘くないと思うが……」と心の中で呟きました。

 それから2年後のことです。オーナーシェフから電話が掛かり、「一度会いたい」とおっしゃるのです。
 私の事務所に、2人で来られましたので、「どうですか。田舎は?」と聞きますと、オーナーシェフは「実は、もう田舎はやめて、東京に戻ってきたんですよ」とおっしゃいます。私は、「えっ、どうしてですか」と聞きますと、「実は、田舎の生活が単調なので、何か物足りなくなってきました。もう、前の店は譲ったので、今後は、和食レストランとは違う仕事をするつもりです」とのことでした。
 私は、失礼ですが「やはりそうか」と思いました。私は、田舎の出身ですので、農家の仕事はよく分かります。農家の仕事は、重労働です。暑いときも、寒いときも待ってくれません。しかし、野菜やお米のために、休むことはできないのです。
確かに、1か月くらいは空気の良いところで、快適な生活だったかもしれません。しかし、何か月もすれば、その空気にも景色にも慣れてしまいます。
 だから、このオーナーシェフは、一、二年で帰ってこられるような気がしていたのです。
  弁護士 田中 清

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熟年離婚

 名前は忘れましたが、ある脳科学の先生が話していたことです。
 よく、男性は、浮気っぽいと言いますが、本当はそんなことはない、たまたま目移りをすることがあっても、原則として男性が一番考えているのは、いつも大事に思っている女性(妻)だということです。
 男性は、「行きつけの店」によく通います。それは、「自分の支配下にある店」の意識が強く、それが習慣化しているのです。
 反対に、女性は、いろいろな店を渡り歩くそうです。
 男性は、一度「自分の支配下」に入った女性については、目移りしません。男性は、行くことが習慣になると、益々他には行かなくなるそうです。いわば、男性は習慣によって愛を育み育てるのです。

 つきあいの長くなった彼女(妻・恋人)には、時間をかけて、その分愛を深めていきます。女性は、男性と長く一緒にいる間に、ものすごく嫌悪感を抱いてしまう場合もあるのですが、妻と長年連れ添った夫は、自分の妻をとても大切に思っているのです。
 若いときは、夫は仕事が中心で、子育てはどうしても妻に任せます。妻から「家庭と仕事どっちが大事なの」と言われても、比較できないほど、どちらも大事なのです。しかし、夫は、「埋め合わせはきちんとするから」と言い残して、後ろ髪を引かれながら仕事に向かいます。「家庭ももちろん大事なんだよ。分かってほしいなぁ」と心の中で呟きながら、職場に向かうのです。
 そして、いつの間にか、加齢臭が出てくる晩年になって、どこでどう嫌われたか、「濡れ落ち葉」と言われつつ、妻に捨てられるのです。
 裁判所の統計によると、離婚調停の申立ての8割は、女性からの申立てです。そして、調停の場では、妻は、「夫の顔も見たくない」と言い、夫は「絶対に離婚したくない。戻ってきてほしい」と言うのです。
 私は、夫の代理人にも、妻の代理人にもなりますが、どちらにせよ、熟年離婚は侘しいですね。
 弁護士 田中 清

赤胴鈴之助 本音と建て前

 先日、「千葉周作」という名前の裁判所書記官から連絡書が届きました。
私は、それを見たとき、「懐かしいなぁ。赤胴鈴之助を思い出すなぁ。」と言いますと、20歳代の秘書が、「赤胴鈴之助って何ですか」というのです。「千葉周作って知らない?」と聞いても、「知りません」と答えます。
 私が、赤胴鈴之助に夢中になっていたのは、小学校4年生か5年生のころ、「少年画報」という漫画雑誌を毎月購入していたときの漫画ですので、20歳代の秘書が知らないのも無理はありません。

 その中で、覚えている1つの話をご紹介しましょう。
 赤胴鈴之助は、北辰一刀流千葉周作道場に通っていましたが、どういう経過かは忘れましたが、道場を破門されてしまいます。
あるとき幕府転覆をもくろむ鬼面党の一味と思われる辻斬りに出逢います。しかし、辻斬りの浪人は、赤胴鈴之助と向かい合ったとき、目を瞑って、剣を持つ手をだらりと下げたのです。赤胴鈴之助は、「むむっ!!隙がない!」と心の中で叫びます。鈴之助が先に切り込めば、一刀両断のもとに切られてしまうでしょう。
 この日は、鈴之助は、何もせずに引き揚げます。
 そこで、鈴之助は、千葉道場に行き、千葉周作先生に教えを乞おうとします。千葉先生は、障子を閉めておられましたが、鈴之助は庭から「先生、鈴之助でございます。今日は、どうしても千葉先生に教えていただきたいことがあって、やって来ました」と千葉先生に話しかけました。
 千葉先生は、すかさず、「一介の流れ者なら、話を聞いてやってもいいが、破門をした鈴之助に話す言葉はない!」と突き放します。
 鈴之助は、途方にくれていましたが、鈴之助に心を寄せる千葉周作の娘の「千葉さゆり」が、「父上は、『一介の流れ者なら、話を聞いてやってもいい』と言っていましたね。今度は、『一介の流れ者』になって、父上に聞いたらどうですか」と、アドバイスするのです。
 それから数時間経った後に、鈴之助は、もう一度庭に来て障子越しに千葉周作に話しかけました。
 「一介の流れ者ですが、千葉先生にお聞きしたいことがございます」と言って、辻斬りの話をします。
 千葉周作は、話を聞いた後、「あなたも同じように、目を瞑って、剣を持つ手をだらりと下げなさい」とアドバイスしたのです。
鈴之助は、「ありがとうございました」と、丁重に礼を述べ、道場を後にします。
 そして、その夜、辻斬りに出会いますが、千葉先生に教わったとおり、目を瞑って、剣を持つ手をだらりと下げました。そうすると、辻斬りの方で、「何だ、これは!」と焦り、辻斬りの方から鈴之助に切り掛かります。そこで、鈴之助は、辻斬りを倒すことができたのです。

 この話は、「本音」と「建て前」を見事に表現した話だと思います。千葉周作は、「破門した鈴之助には教えることはできないが、一介の流れ者なら、話を聞いてやってもいい」とヒントを与えます。鈴之助には、そのヒントを理解できなかったのですが、さゆりの的確なアドバイスで、再び千葉周作に教えを乞うことができたのです。
 千葉周作は、破門はしたものの、鈴之助のことを可愛くて仕方がなかったのでしょう。また、「一介の流れ者」を名乗っていても、それは、鈴之助の声であることは分かっているはずです。それを十分承知の上で、鈴之助を助けたいと思い、アドバイスをするのです。本当に「一介の流れ者」なら、障子を開けるでしょう。障子を開けもしないで、一介の流れ者の相談に乗ったことは、周作も鈴之助も十分に承知の上のことだと思いました。
 「破門した者には教えられない」というのは、建て前です。しかし、破門はしたものの「可愛い弟子の鈴之助の役に立ちたい」というのが本音です。

 私は、顧問会社の法律相談を受け、交渉したときに、2度ほど赤胴鈴之助の上記逸話を例にとって、「建て前上はこうだが、本音はこうだということを、暗に相手に分からせる」手法を取ったことがあり、いずれも大成功したことがあります。
 弁護士 田中 清

世界最古の企業は?

 株式会社金剛組という神社仏閣の設計施工をする会社です。
 創業は、なんと、西暦578年、聖徳太子が摂政になった593年より、15年も前のことです。聖徳太子の命を受けて、百済から3人の工匠が招かれました。その一人が金剛重光という創業者だそうです。当時は、もちろん株式会社制度はございませんので、個人企業だったのでしょう。
 金剛組は、聖徳太子の命を受けて、593年四天王寺を建立し、また、法隆寺も建築したそうです。
 これまで、当主39代、1400年余りにわたり経営してきました。気の遠くなる話です。もちろん、世界最古の企業です。

 それから、世界長寿企業ベスト10のうち、日本の企業が7社を占めており、1位から6位までを、また日本企業が占めているのです(ホテルが多いといいます)。
 世界で創業200年以上の会社は、5586社(41か国)で、半数以上の3146社を日本の企業が占めております。2位はドイツ837社、3位オランダ222社、フランス196社の順だそうです(以上、韓国銀行調べ)。

 なぜ、こんなに長寿企業が日本に揃っているのでしょうか。
 私が思い付くのは、おそらく、日本が島国であり、外国から侵略された歴史がないこと、日本では、妻の姓を名乗る婿養子制度、子供が居ないときの養子制度により、同族経営が可能であったこと、子が親の職業を継ぐ習慣があること、技術が一子相伝で子孫に伝えられることなどですが、いかがでしょうか?
 弁護士 田中 清

盗み癖

  その昔、あるスナックのママさんから相談を受けたことがあります。
 そのスナックには3人ほどのホステスが働いていましたが、ときどき財布からお金が抜き取られることがあったそうです。例えば10万円を財布に入れておくと、7万円を抜き取られ、3万円は残しておくそうです。逆に、3万円を抜き取られ、7万円を残しておいた場合、「少し使いすぎたかしら」ということで放置するのですが、さすがに7万円抜き取られると、「盗まれた」と気が付くのだと思います。それが何度か重なったそうです。
 ママさんは、「私は、A子だと思うのよ。A子が居るときに無くなるからね。しかし、証拠がないのよ」というのです。私は、「そう。証拠がなければ、何もできないよね」と答えておきました。
 それから2週間後、ママさんは小声で、「やっぱり、A子だったのよ。一昨日の日に、財布ごと取られて、その財布には、運転免許証や印鑑カード、部屋の鍵まで入っていたのよ。部屋の鍵は合鍵があったので、何とかなったけど、運転免許証や印鑑カードなんか大変でしょう。そこで、昨日A子に頼んだのよ。『お願い。Aちゃん、出して!あなたが部屋に入った時になくなったから、あなたでしょう。運転免許証まで入っているのよ。お金は上げるから出して!お願い!』と頼んだのよ。そしたら、最初は『知らない』と言ってたけど、20分ほど頼んだら、自分のバッグから出して返してくれたのよ。A子は、泣いて謝ったわ。『もう二度としません』って。許してあげてもいいかな」と言うのです。
 私は、「警察に言わないというのは、金額も少ないようだし、ママさんのいうとおり、いいと思うよ。しかし、これからも雇い続けるのは危険が大きいね。窃盗は、『盗み癖』といって癖なんだよ。僕やママさんのように、普通の家庭に育ってきた者は、お金がそこにおいてあったって、盗りもしない。つまり、盗みに対する抵抗心が強くて、ハードルがすごく高いんだよ。乗り越えられないハードルなんだよ。しかし、盗み癖のある人は、ハードルが低いので、何度でも同じように盗みをするよ。今回は、ママさんの財布だったけど、お客さんの財布に手を付けたら、店の信用もなくなるからね。僕がママさんの立場だったら、辞めてもらうね」と言いました。
 ママさんは、何度もお礼を言って、「あれから、早速A子を解雇したわ」ということを、後日聞きました。
 私は、法律相談で、横領をした職員や盗みをした職員の処分を問われたとき、よくママさんとA子のことを思い出して、同じようなこと、すなわち、「盗み癖」のことを言います。
 弁護士 田中 清

銀二貫を読んで……その3

  もう一つ、この本で印象に残ったのは大阪商人のお金の使い方です。
 井川屋の和助は、火事で焼けた天満宮に寄進するための銀二貫を、貸してあった美濃志摩屋から取り立てて帰る途中に、仇討ちの現場に出逢いました。そのとき、仇を討とうとした建部玄武と、一太刀のもとに切り捨てられた彦坂数馬、その子10歳くらいの彦坂鶴之輔が父親を守るため両手を広げて建部玄武の前に立ちはだかった姿に感動し、「この仇討を銀二貫で買わせてください。」と申し出たのです。
 むしろ、10歳の彦坂鶴之輔の命を救おうとするために、またこれ以上無駄な殺生を繰り返さないために、銀二貫を使ったものと言えます。銀二貫は、前にも言いましたように33両、1両を10万円とすると、330万円の大金です。和助は、その後、鶴之輔を美濃志摩屋の天場(寒天工場)に預けます。
 井川屋の番頭は、天満宮に寄進するための銀二貫を、見も知らぬ仇討のために使ったことを責め、その後、天場から戻り、井川屋の丁稚として働くようになった鶴之輔(丁稚名 松吉)にも、何かと嫌味を言うようになります。それからの井川屋は、一層始末して、天満宮に寄進するため、銀を貯めるようにします。
 その後、美濃志摩屋が火事に遭ったとき、和助は、そのときに貯まっていた銀一貫全部を美濃志摩屋に差し出します。
 さらに唯一の仕入れ先でお世話になった原村の半兵衛が、天草仕入れの道を断たれて途方に暮れているとき、ようやく貯まった銀二貫を半兵衛のために差し出します。
 一方、仇討を売って銀二貫を手にした建部玄武は、故郷の苗村に帰りましたが、苗村藩はお取潰しとなり、武士は百姓になりますが、水が引けずに困っていました。そこで、玄武は、苗村の用水路建設のために、銀二貫を差し出すのです。もちろん、銀二貫では、用水路はできませんが、建部玄武の心意気は精神的に苗村の人たちを奮い立たせ、全員の協力で立派な用水路を完成させます。
 他方、和助は、それからも節約を続け、ようやく銀二貫を天満宮に寄進するという物語です。
 銀二貫が回りまわって、生きたお金となって人を救うという物語で、お金と人の関わり合いという点で、非常に勉強になった本でした。

 なお、私の村(高槻市原)の寒天作りの話は、銀座ファースト法律事務所弁護士 田中清のメモ(川のブログ)の「出生14 寒天作り」に掲載されておりますので、併せてご覧いただければ、幸甚です。
  弁護士 田中 清
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