fc2ブログ

怖さが治る薬その2

 次の日も、また次の日も伊藤医院に通いましたが、薬が効いてきたのか、竹藪道も全然怖くなくなりました。
 2週間が近くなった日、昭君は、帰りの竹藪道を鼻歌を歌いながら帰って来ると、「キャー」と言って女の子が抱き着いてきました。昭君は、「お姉ちゃんか。どうしたの」と言いますと、和子さんは、「今日は、昭が遅いから迎えに来たのよ。そしたら、そこの竹藪に誰かがいるのよ。怖い……。助けて……」というのです。
  昭君がその場所を見ると、誰かが案山子(かかし)を捨てたようです。
  「なんだ、お姉ちゃん。案山子だよ。大丈夫だよ」と言って、手を繋いで家に帰ってきました。
  そのことをお母さんに話すと、「もう昭は大丈夫みたいね。明日、お母さんと一緒に伊藤先生にお礼を言いに行きましょう」と言いました。

  次の日、昭君はお母さんと一緒に伊藤先生のところにお礼に伺いました。お母さんから昨日の出来事や、最近の昭君の様子を話すと、伊藤先生はやさしく微笑んで、「そうですか。昭君もすっかり逞しくなったね」と言いながら昭君の頭を撫でました。
   伊藤先生は、「昭君、もう明日から来なくてもいいよ。すっかり治ったもんね」と付け加えることも忘れませんでした。
   「昭、ちょっと待合せ室で待ってて……。お母さんは、先生にお礼をするから」と言って昭君を待合せ室に行かせました。
   「先生、毎日昭がいただいていた薬は、どういう薬だったんですか。」と聞きますと、伊藤先生は、「ただの砂糖水ですよ。でも昭君に種明かしをしてはいけませんよ」と言って、いたずらっぽく笑いました。

  上記のような砂糖水による治療効果のことをプラシーボ効果(偽薬効果)と言い、れっきとした医学用語です。
  先日、テレビ番組で普通のビールだと偽って、10人くらいの人にノンアルコールビールを飲ませてカラオケ大会をしたところ、7割くらいの人が、本当にアルコールが含まれていると思い込み、酔っぱらうという状態になったそうです。正にプラシーボ効果ですね。 
   
     弁護士法人銀座ファースト法律事務所 弁護士 田中  清
   
スポンサーサイト



怖さに効く薬 その1

 小学校4年生のときに読んだ話です。
昭君は、小学校4年生ですが、幽霊やお化けがいると本当に信じており、夜はトイレにも行けません。中学生のお姉さんの和子さんからもいつもバカにされており、悔しくてなりませんが、本当に怖いのですから、反論はできません。
 お母さんは、昭君に対し、「男の子なのに困ったわねぇ。伊藤先生のところに行ったらどうかしら」と言い、内科医の伊藤先生のところに、毎日通うことになりました。伊藤先生の医院は歩いて20分くらいですが、その途中に500メートルほどの両側竹藪の場所があります。
 昭君は、伊藤先生のところに通うことになりました。竹藪の道は、昼でも暗いので、昭君は、必死になって走り抜けました。ようやく伊藤先生のところに行くと、伊藤先生は、やさしく昭君の病状を聞き、学校の話や、お友達の話をして、薬を飲ませてくれました。
 「これを飲めば、怖さなんて感じないよ。2週間も通えば、怖さは治るよ」と言ってくれました。
 薬は甘いので、昭君は、すっかり薬のことを気に入りました。しかし、帰りの竹藪道は、やはり怖くなり、必死で走り抜けました。
 次の日、伊藤先生に、竹藪道はやはり怖いので走り抜けていることを言いますと、伊藤先生は、「この薬は良く効くから大丈夫だよ。歩いて通っても怖くないよ」とおっしゃいます。そして、甘い薬をいただいて帰ったのです。
 帰りの竹藪道に差し掛かったとき、「薬を飲んだのだから怖くない。薬を飲んだのだから怖くない」と呪文のように唱えて心を落ち着かせて歩いて竹藪道を行きましたが、伊藤先生がおっしゃったように、怖いという気持ちがだんだんと薄れていることに気が付きました。「なるほど、怖くない」と、昭君は、相当自信がつきました。

   弁護士法人銀座ファースト法律事務所 弁護士 田中 清

プロフィール

弁護士田中清

Author:弁護士田中清
FC2ブログへようこそ!

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR