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日馬富士の暴行事件について その5

 傷害事件を起こした場合、大きく分けて、①刑事罰、②組織内の懲戒、③民事損害賠償が考えられると、前回書きました。
それでは、関係者について、この3つのことについて検討してみたいと思います。
 まず、日馬富士の刑事罰ですが、前回までの検討の結果、動機において酌量の余地はあるものの、暴行が執拗であり、怪我の結果も重いこと、後遺症の有無が不明であること、日馬富士は、自ら責任を取って引退し、大きな社会的制裁を受けたこと、示談が未だ成立していないこと及びそれに代わる措置も講じていないことなどの事情を総合して考えると、罰金50万円の略式命令が一番可能性が高いのではないかと思います。

 不起訴処分の可能性もないとはいえませんが、それには、示談の成立と被害者の宥恕が最低限必要でしょう。
 起訴される可能性もありますが、示談が成立せず被害感情が悪いこと、後遺症があることの事情が認められると、起訴されて正式刑事裁判ということになるのです。しかし、その結論は、執行猶予付き判決であり、実刑になることはないでしょう。
 
 次に、組織内の懲戒ですが、すでに日馬富士は、引退という重い決断をしましたので、それ以上の懲戒としては、功労賞金の減額ということは考えられるでしょう。
 最後に、民事損害賠償ですが、マスコミでは7000万円になると報道されていますが、死亡事故でもない限り、なかなか7000万円の損害賠償が認められることがありません。しかし、貴ノ岩側の主張が未確定ですので、この程度にしておきます。

 次に、白鵬や鶴竜についての責任が問われております。どうしてすぐに止めなかったのかという点です。
 白鵬や鶴竜が止めなかったことについて、犯罪が成立するとは考えられません。白鵬や鶴竜について法律上の制止義務が認められませんので、不真正不作為犯としての傷害罪が認められないからです。
 しかし、相撲協会は、白鵬や鶴竜について、横綱の品格に欠ける行動があったとして、組織内の懲戒として、白鵬について1月場所給料の全額の減額と3月場所の半額の減額、鶴竜について1月場所給料の全額の減額を決めました。
 あるマスコミ関係者は、「白鵬や鶴竜のようなお金を持っている者について、この程度の減額は全く無意味である」と言っていました。しかし、そのような論理でいうならば、罰金50万円の略式命令は全く無意味であると主張するのでしょうが、傷害罪においては、罰金の最高額は50万円ですので、罪刑法定主義からしても罰金50万円の略式命令を非難することはできません。

 一番新しい情報ですが、昨日、鳥取地方検察庁は、日馬富士について略式命令にすることを決めたそうです。罰金の額は報道されておりませんが、おそらく最高額の50万円でしょう。
 同じ日、豊田真由子元衆議院議員について、不起訴処分の結論になったようです。豊田真由子元衆議院議員の場合は、毎日のように「このハゲー、ち・が・う・だろう」という声が報道されたこと、先日の衆議院選挙で落選し、大きな社会的制裁を受けたこと、被害者との間で示談が成立し、処罰を求めない旨の上申書が提出されたことが、不起訴処分の結論に大きな影響を与えたのであろうと思います。

 なお、このブログの文章は、私個人の意見でありますので、ご了承のほどお願い申し上げます。

   弁護士法人銀座ファースト法律事務所 弁護士 田中 清

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日馬富士の暴行事件について その4

 傷害事件を起こした場合、大きく分けて、①刑事罰、②組織内の懲戒、③民事損害賠償が考えられます。
 前回までの3回は、①の刑事罰について考えてきました。それには、①犯行の動機、②被害者の過失、③犯行の態様、④被害者の怪我の程度、⑤後遺症の有無、⑥示談の成立の有無、⑦加害者の社会的制裁の程度が問題となる旨記載しました。
つい最近の報道で、貴ノ岩の事情聴取が終わり、貴ノ岩は、「何もしていないのに、日馬富士から一方的に暴行を受けた、早く止めてほしいと思ったのに、誰も止めてくれなかった。」旨述べています。
 これに対し、日馬富士の供述は、「白鵬から説教を受けていたときにスマホをいじっていた。注意したら睨み返された」と言っているのが分かります。
 こんなとき、どちらの言い分が正しいのでしょうか。裁判官の立場だったら迷うところでしょう。
 しかし、以前にも書きましたが、何もしないのにこれほどひどい暴行をすることは、考えられません。日馬富士がひどく酒癖が悪いとか、素行が悪いのであれば、別ですが、日馬富士の評判は良く、酒癖も悪くないという噂です。日馬富士が貴ノ岩に対し、相当強い恨みをもっていたとすれば別ですが、そのような証拠もありません。そうだとすると、日馬富士の「白鵬から説教を受けていたときにスマホをいじっていた。注意したら睨み返された」という方が暴行の動機として説得力があると考えます。このうち、「注意したら睨み返された」の部分は、少し証拠が弱いといえるかもしれません。しかし、日馬富士は、「注意したら睨み返された」と思ったのでしょう。そうであったからこそ、日馬富士の執拗な暴力の認定ができるのだと思います。
 今回、日馬富士は自ら引退の発表をしました。日馬富士は、横綱になるまで、人並み外れた努力と稽古を積んだことでしょう。その日馬富士が引退という道を選んだことについては、非常に苦しい選択だったと思います。

  なお、このブログの文章は、私個人の意見でありますので、ご了承のほどお願い申し上げます。

   弁護士法人銀座ファースト法律事務所 弁護士 田中 清

日馬富士の暴行事件について その3

 前回に引き続いて、④被害者の怪我の程度、⑤後遺症の有無、⑥示談の成立の有無、⑦加害者の社会的制裁の程度について述べます。
 上記④被害者の怪我の程度、⑤後遺症の有無、については、貴ノ岩側から新しい診断書が提出されていないようですので、はっきりとしたことは分かりません。後遺症として、耳が聞こえづらくなったという貴ノ岩側からの訴えがあるそうですが、怪我の直後の巡業先での相撲では、貴ノ岩が出場し、取り組みの相手に勝っている録画も流されました。しかし、貴乃花親方も、貴ノ岩も口をつぐんでいますので、本当のところは、全く分かりません。しかし、④被害者の怪我の程度、⑤後遺症の有無は、罪責に大きな影響を与えますので、報道機関に言うかどうかは別として、捜査機関も相撲協会側も是非とも知りたいところです。
 貴乃花親方は、「相撲協会は信用できないので、言う必要はない」と言っているそうですが、相撲協会は、日馬富士の処分を決めるところですので、頑なに事情聴取に応じない貴乃花親方の姿勢には疑問を感じます。「相撲協会は信用できない」といいますが、貴乃花親方も協会の理事ですし、その構成員です。貴乃花親方の弟子が相撲を取ることができるのも、自らが所属している相撲協会があるからこそではないでしょうか。
 「相撲協会は信用できないので、協会には協力できない」という主張も、主観的な考えであり、説得力もありません。
 上記⑥示談の成立の有無については、皆様ご存知のとおり、示談は成立しておりませんし、貴乃花親方も示談を拒否するでしょう。示談が成立していれば、有利な情状にはなるでしょうが、示談が成立しなければ、非常に重い刑になるのでしょうか。
私は、過去にした傷害刑事事件の弁護で、被害者が頑なに示談を拒否していたのですが、その損害賠償相当額を法務局に供託し、執行猶予判決にしたことがあります。日馬富士も、貴ノ岩を被供託者として損害額を供託する方法もあったと思います。
 最後に⑦加害者の社会的制裁の程度ですが、日馬富士は横綱を引退しました。
 相撲取りにとっては、横綱という最頂点の地位を返上したのですから、社会的制裁は十分に大きいと言ってもよいでしょう。
(続く)
 なお、このブログの文章は、公式ブログとはいいながら、私個人の意見でありますので、ご了承のほどお願い申し上げます。

弁護士法人銀座ファースト法律事務所 弁護士 田中 清

日馬富士の暴行事件について その2

 日馬富士暴行事件(正確には傷害事件)について、連日報道がなされておりますが、このブログでは、冷静かつ客観的に書いてみたいと思います。
 犯罪については①犯行の動機、②被害者の過失、③犯行の態様、④被害者の怪我の程度、⑤後遺症の有無、⑥示談の成立の有無、⑦加害者の社会的制裁の程度などが、考慮要素となります。
 上記①犯行の動機と②被害者の過失ですが、これは、表裏一体の関係になるかもしれません。また、③の犯行の態様も含めて、貴ノ岩の事情聴取が明らかになっておりませんので、本当のところは不明ですが、これまで報道されている内容によると、白鵬が説教をしていたときに、貴ノ岩がスマホをいじっていたことに日馬富士が激高し、「大横綱が話しているときに何をやっているんだ」といいながら、カラオケのリモコンと素手で、数十回殴ったということです。
 何人もの目撃者が居る中で、これだけ激しい暴行に及ぶのですから、相当の動機があったものと考えるのが通常でしょう。また、日馬富士は、普段酒癖は悪くなく、酒で乱れて暴行に及んだことはないというのですから、マスコミ報道で言われている、上記のような「白鵬が説教をしていたときに、貴ノ岩がスマホをいじっていたことに日馬富士は激高し、『大横綱が話しているときに何をやっているんだ』というのが本当のところ」でしょう。また、日馬富士は、スマホをいじっていた貴ノ岩に注意したところ、貴ノ岩は睨み返したというのです。しかし、睨み返したかどうかは、貴ノ岩の言い分を聞かないと分かりません。
貴ノ岩の事情聴取は、できていないそうですが、また違うことを言うかもしれませんが、仮に、貴ノ岩が、「私は何もしていません。いきなり日馬富士が怒って頭を何十発も殴ってきたのです」と言ったとしても、その信用性は疑わしいというべきでしょう。これだけの暴行をさしたる動機もないのに行うことは考えられないからです。
 この事件では、日馬富士側に、暴力を振るったこと、素手だけでなくカラオケのリモコンで殴ったことなど責められるべき点が大きいことは事実ですが、一方、貴ノ岩側にも大横綱が説教しているときにスマホをいじっていたという過失(落ち度)があったというべきでしょう。(続く)

  弁護士法人銀座ファースト法律事務所 弁護士 田中 清

日馬富士暴行事件について その1

 大相撲の巡業先の鳥取市で、モンゴル人同士の親睦会があり、その席上で、日馬富士が貴ノ岩に暴行し、加療2週間を要する頭蓋骨骨折、脳髄液漏の疑い等の傷害を負わせました。
 刑法204条では、人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する、と定められています。
 また、傷害罪は暴行罪の結果的加重犯と言われていますとおり、暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、暴行罪となります。つまり、1個の行為につき、傷害罪が成立するときは、暴行罪が成立することはございません。それが結果的加重犯といわれる所以です。
 暴行罪は、刑法208条により、2年以下の懲役、30万円以下の罰金、拘留、科料の刑罰が定められています。
 それでは、傷害罪とは、どういうものなのでしょうか。一言でいうと、人の生理機能に障害を与えたときとされています。肉体的な障害ばかりでなく、PTSDのような精神的な後遺症を残した場合も傷害罪になります。また性病の保菌者がそのことを隠して女性と性関係を持ち、女性に性病をうつした場合も、傷害罪に当たります。
 それでは、暴行罪が成立する場合とは、どういう場合でしょうか。典型的な暴行とは、「人体に対する有形力の行使」とされています。殴る、蹴るだけでなく、棒などの道具を使った暴行もありますが、判例上、寝ている間にバリカンを使って丸坊主にした事件も暴行罪とされていますし、石を投げたが人に当たらなかった場合も暴行罪が成立するとされています。
 つい最近(本年12月3日)、電車の中で、元五輪メダリストのスケート選手が女性に体液を掛けた行為が、暴行罪に当たるとして逮捕された事件がありましたが、このような行為も暴行罪に当たるのです。
 それから、「書類送検」という言葉を良く聞きます。「書類送検」とは、司法警察員(警察官)が犯罪の捜査をしたときは、速やかに書類及び証拠物とともに事件を検察官に送致しなければならないというものです(刑事訴訟法246条本文)。これは、検察官が起訴したり、不起訴にしたりする決定権を持っているため、警察官が捜査をしたときは、原則としてすべて検察官に記録(及び身柄)を送致し、検察官に起訴・不起訴の最終決定を仰がなければならないからです。マスコミなどで、「書類送検までした」と言われることがあり、あたかも罪が重大だから書類送検をしたように報道されていますが、原則としてすべての事件で「書類送検」をしなければならないのですから、罪が重大な事件に限らずに、書類送検をしなければならないのです。
 原則があれば例外がありますが、例外的に「書類送検」をしなくても良い事件というのは、検察官が予め指定した微罪処分等です。
 話がそれましたが、次回は、日馬富士の暴行事件について話をしましょう。

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